財団を創設し強制労働に補償したドイツ

補償の拒否から基金による解決へ

 強制動員・強制労働を行った政府と企業が共に出資した基金を創設し、財団を通じて動員被害者に補償を行う――そうしたかたちで解決を実現したのが、第2次世界大戦時に日本の同盟国であったドイツです。
 ドイツも戦時中、占領地等からユダヤ人を中心に800万人~1400万人に及ぶ人々を強制動員して強制労働をさせました。戦後のドイツは、これに対する補償を行いませんでしたが、被害者が次々と動員企業を訴えるようになると、政府と各企業が出資する財団を通じて被害者に補償を行ったのです。
 そこに至るまでには、長い道のりがありました。
 ドイツは戦後、ナチズムによる迫害の被害者に対しては、二国間協定などを通じて、一定の補償を行ってきました。しかし強制労働については、戦争に付随する賠償に属する問題であり対戦した各国との平和条約の締結を通じて最終的に取り決められるべき事柄だとしていました。冷戦下では、これは補償の先送りを意味していました。
 しかし冷戦が終結し、90年10月に東西ドイツが統一すると、90年代後半には強制労働の被害者たちがフォルクスワーゲン社やBMW社、最大手のドイツ銀行などを米国の裁判所に訴える集団訴訟を行うようになります。
 1998年、ドイツでは社民党と同盟90/緑の党の連立政権が成立します。この政権は、「基金」を創設して強制労働被害者への補償を実施する方針を打ち出しました。

企業も「グローバル展開に必要」として主導

 企業の側も、「グローバルな戦略の展開には過去の清算が急務」と考えていました。ドイツ銀行やダイムラークライスラー、シーメンスなどがこうした流れを企業側で主導しました。米国政府も、こうしたドイツ政府・企業連合と、被害者団体との話し合いを仲介しました。
 こうして、ドイツ政府は99年末、総額100億マルク(約5400億円)を支払うことで被害者団体と大筋合意。半分の50億マルクを産業界が負担することになり、約130社が拠出を表明しました。
 2000年7月には「記憶・責任・未来財団」設立法が成立。8月に施行されました。ドイツ政府と企業が1:1の比率で出資して財団を設立し、強制動員被害者(生存者)に賠償するというものです。財団設立後、約166万人(およそ100カ国)の被害者に総額43.7億ユーロ(日本円で約5360億円)が支払われました。ただし、ドイツ政府は強制労働に対する「法的責任」は認めませんでした。「歴史的・倫理的責任」を認めて補償を行ったということです。
 「記憶・責任・未来財団」は07年6月に支払いを完了し、その後は強制労働被害についての歴史研究や人権を保障するためのプロジェクトなどを支援しています。

2020年6月14日)

 
 
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