◎「朝鮮人は給料をもらっていたんだから強制労働ではない」という主張は大間違い

 戦時労務動員における朝鮮人の「強制労働」について、インターネット上では、以下のような書き込みをたくさん見かけます。
 

    • 「一般的に『強制労働』とはシベリア抑留のような『奴隷的強制労働』を指します。給与がもらえる時点で当てはまりません」

    • 「給与帳簿が残っているから強制労働でなかったことは明らかです」


 どうも彼らは、「強制労働」とは給与が支払われない労働のことを指すと考えているようです。しかしこれは全くの間違いです。
 なぜなら、賃金が支払われていても、そこに強制があれば「強制労働」だからです。

ILO「賃金や報酬が提供されているかどうかは関係ない」

 労働者を保護するため、国際的な労働基準を設定するなどの活動を行う国連の専門機関であるILO(国際労働機関)のサイトでは、強制労働について、以下のように定義しています。

強制労働とは、ある者が処罰の脅威の下に強要され、かつ、右の者が自ら任意に申し出たものではない一切の労務を指します。処罰とは、監禁、暴力による威嚇やその行使、労働者が職場の外に自由に出ることの制限を含みます。脅威とは、被害者の家族に危害を加える旨の脅迫、不法就労者の当局に対する告発、最終的に賃金が支払われるとの期待の下に労働者を職場に留める目的で行われる賃金不払を含みます。労働者に賃金又はその他の報酬が提供されていることは、必ずしもそれが強制労働でないことを示すものではありません。
 

ILO 国際労働機関 ヘルプデスク〈リンク〉より

 「労働者に賃金またはその他の報酬が提供されて」いるからと言って、強制労働ではないとは言えない、暴力や監禁などの「処罰の脅威」によって強要される「一切の労務」が強制労働なのだ――とハッキリ書いています。

 日本の労働基準法にも、強制労働を禁止する条文があります。

第5条(強制労働の禁止) 使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。

 ここでも、暴力や不当な自由の拘束を通じて意に反して労働を強制されることを「強制労働」と呼んでいるのが分かります。賃金の有無については何も書いていません。

 なので、戦時労務動員によって日本に連れて来られた朝鮮人が「強制労働」をさせられたかどうかを判断する上でも、基準は「賃金が支払われていたか否か」ではなく、「暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して」労働を強いられていたか否か、という点にあります。

 もちろん、配置された事業所によって実情は違います。日本に労務動員された朝鮮人の「全員」が強制労働を強いられていたと決めつけることはできないでしょう。しかし多くの場合、朝鮮人が送り込まれた現場に、強制労働と呼ぶべき実態が存在していたことは間違いありません。

 なぜそう言えるのでしょうか。

朝鮮人は「強制労働」が横行する現場に多く配置された

 第一に、朝鮮人が配置されたのが、多くの場合、鉱山や土建事業の現場であり、こうした場所では当時、「監獄部屋=タコ部屋」に典型的にみられるような強制労働が、もともと広く存在していたからです。

 1953年に刊行された労働省労働基準局の解説書『労働基準法』(研文社)には、以下のように書いてあります。

戦時中のわが国の労働行政…は労働者を使用者に対する独立の人格として保護しようとする労働者保護行政とは全く対蹠的な立場に立つ行政であった。生産増強の至上命令の下においては、労働者の保護はその目的に沿う限りにおいてのみ意義を認められ、土建、鉱山等においてのみならず、一般工業事業場においても、労働者の人格を無視した労働強化が行われた。そして戦争目的のための軍の命令によって、監獄部屋における強制労働も大正4年〔=1915年〕の自由放任時代の如き状態をすら再現したのである。

 朝鮮人労働者が送り込まれたのは、こうした現場だったのです。彼らが暴力や拘束を通じて、意に反した労働を強いられただろうことは想像に難くありません。

 第二に、実際に、朝鮮人の強制労働を伝える公的な文書や労働者の証言が無数に残っているからです。私たちのサイトの「史実にアクセス」では、こうした記録を収録・掲載していますので、ご覧いただければと思います。

 たとえば、こちらの労働者の証言は、飛行場の建設現場から脱走しようとした労働者に残酷なリンチが加えられていたことを伝えています。

 

 こちらの厚生省の報告は、給料について尋ねるだけで朝鮮人はリンチを受ける状況だったことを記しています。
炭鉱の朝鮮人労働者「給料のことを言えばリンチ」(厚生省報告から)リンク
 

 住友系の企業が堂々と「不平不満の者は…鉱山の附帯事業の請負者の『タコ』部屋に収容するも一方法である」と記した「半島労務員統理綱要」(朝鮮人管理マニュアル)も残っています。
不平を言う朝鮮人は「タコ部屋」送りリンク
 

 第三に、朝鮮人労働者が日本の裁判所に訴えた裁判でも、強制労働の被害事実を認めた判決がいくつもあります。

 たとえば、2018年11月の大法院判決で勝訴した元徴用工が以前に日本で起こした裁判では、大阪高裁が判決で「実質的にみて強制労働に該当し、違法といわざるをえない」と認めています。
「強制労働は違法」と大阪高裁リンク
 

 三菱重工を訴えた「朝鮮女子勤労挺身隊」の訴訟では、2007年に名古屋高裁が「本件勤労挺身隊員らの本件工場における労働・生活については、同人らの年齢、その年齢に比して過酷な労働であったこと、貧しい食事、外出や手紙の制限・検閲、給料の未払など…それは強制労働であったというべきである」と判決の中で認めています。
「学校に行ける」とだますー名古屋高裁リンク


 このように、多くの朝鮮人労働者が日本において「暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して」労働を強いられた、つまり「強制労働」をさせられたケースは広範に存在しました。裁判所も認めているように、そのことは否定しようがないし、「給与帳簿が残っているから」などという理由で否定することはできないのです。

2022年2月14日)

 
 
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